東京地方裁判所 平成9年(ワ)19589号 判決 2000年3月09日
《住所略》
原告
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
西田公一
同
仲田信範
同
長谷川健
同
東澤靖
《住所略》
被告
小池隆一
右訴訟代理人弁護士
日野久三郎
同
関口亨
同
日野明久
主文
一 被告は、野村證券株式会社に対して、金3億6973万円及びこれに対する平成7年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、野村證券株式会社の取締役が商法294条の2第1項に違反して被告に合計3億6973万円の利益を供与したとして、野村證券の株主である原告が商法294条の2第4項及び同条3項に基づく代表訴訟を提起して、被告に右利益相当額3億6973万円を野村證券に対して返還することを求めた事案である。
第三 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、野村證券の株主であるとともに、同證券本店において小甚ビル名義で取引口座を開設して有価証券の売買取引等を行っていた顧客であるが、平成6年12月中旬ころから平成7年4月中旬ころまでの間、数回にわたり、当時の野村證券取締役藤倉信孝らに対して、右有価証券の売買その他の取引等において生じた損失の一部の補てんを要求した。
2 藤倉らは、平成7年1月31日から同年6月15日までの間、前後5回にわたり、野村證券が自己の計算で行った別表記載の取引を、コンピューター操作により、被告から委託を受けて行った取引として、小甚ビル名義の取引勘定にそれぞれ帰属させる方法によって少なくとも合計4749万円相当の財産上の利益を被告に供与した。
3 藤倉らは、平成7年3月6日、五洋建設株式会社発行のユーロドル建てワラント400ワラントを被告が小甚ビル名義で野村證券から買い付けた事実はないのに、あたかも被告が小甚ビル名義で単価18ポイントで買い付けた上、野村證券に単価19.25ポイントで売りつけたかのようにコンピューターを操作し、これにより同有価証券の売買を小甚ビル名義の取引勘定に帰属させて、少なくとも224万円相当の利益を被告に供与した。
4 藤倉らは、平成7年3月24日ころ、野村證券総務部総務課応接室において、被告に対して、野村證券の計算により現金3億2000万円を交付した。
5 右2ないし4の財産上の利益の供与の趣旨は、平成7年6月29日に開催される野村證券の第91回定時株主総会で議事が円滑に終了するよう株主の権利行使に関して被告が野村證券に協力することの謝礼及び被告が野村證券で行った証券取引から生じた損失に対する補てんであり、被告は右の趣旨を知りながら利益の供与を受けた。
6 よって、原告は、被告に対して、商法294条の2第4項及び同条3項に基づき、野村證券に対し金3億6973万円及びこれに対する利益供与の最後の日の翌日の平成7年6月16日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実のうち、被告が野村證券の株主であった事実は認め、その余は不知ないし否認する。被告は、藤倉らに利益をあげるように依頼したことはあるが、不正な行為を行うように要求したことはない。
2 請求原因2、3の事実は不知。被告と野村證券の取引は一任勘定取引でありその内容の詳細を野村證券から報告を受けていなかったため、被告は利益を把握しておらず、利益供与を受けたという認識はなかった。
3 請求原因4の事実は否認する。被告は現金3億2000万円を交付を受けたことはあるが、右の現金は藤倉が個人的に用立て、被告はこれを同人から借りたのであり、野村證券から利益の提供を受けたものではない。
4 請求原因5の事実は否認する。野村證券から被告に利益が供与されたとしても、被告は野村證券の株主権を行使する意図はなかったのであるから、野村證券からの利益の供与は、株主権の行使に関するものであることを被告は認識していなかった。
第四 当裁判所の判断
一 請求原因1ないし5の事実について
請求原因1の事実のうち、被告が野村證券の株主であった事実は当事者間に争いがない。右の点以外の請求原因1及び同2ないし5の事実について以下判断する。被告は、請求原因1ないし5の事実について公訴を提起され、東京地方裁判所が、平成11年4月21日、請求原因1ないし5の事実を認定して、他の罪とあわせて被告を懲役9月に処する判決を宣告し、右判決は、同日確定したことは、甲一によって認められる(なお、右判決の宣告及び確定自体は当事者間に争いがない。)。
被告が本件訴訟の請求原因の認否において主張する内容は、刑事事件において被告が主張したところであるが、請求原因4の現金3億2000万円の交付を受けたのが野村證券の計算によってではないという主張を含めてすべて刑事判決で排斥されており、かつ、本件訴訟においても被告から新たな主張や証拠の提出はない(乙一は右刑事事件の公判における被告人質問調書の一部である。)。
したがって、前記の確定した刑事判決の存在及び本件訴訟の弁論の全趣旨から請求原因1のその余の事実及び同2ないし5の各事実を認めることができる。
二 よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菅原雄二 裁判官 中山顕裕 裁判官 松山昇平)
別表
<省略>